新年のごあいさつ(令和3年1月)~ワンヘルスの実践により人獣共通感染症を克服するために~
2021年01月01日 お知らせ
新年明けましておめでとうございます。
昨年来、世界各地で続く新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の猛威により膨大な数の人命が奪われ、経済面においても、飲食や観光関係を中心に事業が破綻に瀕する事態となっています。
何としても医療崩壊を防いで犠牲者を最小限に留めるとともに、困難に直面している事業者や国民の生活を支え、一刻も早く、その再建を進めていかなければなりません。まさに、今が、私ども、政治・行政に携わる者の頑張り処だと痛感しています。
このような眼前の脅威や課題に対する対応が急がれるのは当然ですが、一方で、人獣共通感染症に関しては、その原因を踏まえた予防的なアプローチも極めて重要です。
そもそも、COVID-19やMERS、SARSといった感染症は、人獣共通感染症(動物由来感染症)と呼ばれ、人の感染症(1,400種以上) の約6割を占めています。自然の生態系を乱す開発行為など、人と動物の生活環境や自然環境の変化に伴い両者が適切な距離を保つことができなくなったことから、動物の感染症が人に伝播するようになったと言われています。人が抵抗力(抗体)を持たないため、時として、今回のCOVID-19のような爆発的な大流行となり、人に甚大な危害を及ぼしてきたのです。
そこで、世界獣医師会の提唱に世界医師会等が呼応して、「人と動物の健康並びに環境の健康(生態系の健全性)」 は、密接に関連し合う一体のものであることから、これらを「健康はひとつ」として守り、継承していくことによって、人獣共通感染症の拡散を可能な限り未然に防がなければならないという「ワンヘルス」の理念が、今、世界で拡がりを見せています。
そして、2016年に福岡県(北九州市)で開催された「第2回世界医師会と世界獣医師会ワンヘルス国際会議」で発出された「福岡宣言」を踏まえて、ワンヘルスは理念の普及から実践の段階にステージを上げることになりました。
そこで、福岡県議会では、「福岡宣言」誕生の地としてワンヘルスの実践活動をリードしていくため、その仕組みを定める条例制定の取組が進められていたところ、昨年の12月定例会最終日(12月18日)、「ワンへルス推進基本条例」が制定されました(令和3年1月5日公布・施行)。
当会では、九州の成長発展の基盤として、広域防災拠点の整備をはじめとする大規模災害への備えを提言してきましたが、感染症の世界的大流行(パンデミック)は、まさに大規模かつ広域の大災害として、あるいはそれ以上に、社会の成長発展に対する最大の危機となります。ワンヘルスの取組は、当会の政策提言と軌を一にするものといえ、しかも、いわば「ワンヘルス産業」とも言いうる新たな産業分野を生みだす可能性に満ちています。当会としても、この条例を契機とした様々な取組に大いに期待しているところであり、関係団体等とも連携しながら、今後、県が策定するワンヘルス推進実行計画等に対し、積極的に提言を行うとともに、ワンヘルスの実践活動を引き続き支援してまいります。
さて、COVID-19への対応やワンヘルス推進だけではなく、今年は、九州の成長戦略に関し、大変、重要な課題が山積しています。これらにも着実に取り組み、コロナ後の九州が、再び力強く発展できるよう、その基盤づくりを進めていかなければなりません。
そのひとつが「日田彦山線のBRTによる復旧とこれに伴う沿線地域の振興策」です。昨年、当会では、松本國寛理事を座長とするプロジェクトチームを立ち上げ、添田町や東峰村の皆様のご意見を踏まえて「日田彦山線沿線地域基本構想」を取りまとめることができました。大変、喜ばしく、ご尽力いただいた皆様に心から御礼を申し上げる次第ですが、今年は、これを具体化していかなければなりません。
この地域は、清らかな水と豊かな自然に恵まれた農山村が中心の、ジビエを含む食の宝庫ともいうべき地域特性を有しています。ワンヘルスの実践の場としてもふさわしく、日田彦山線復旧問題の解決にあたり、当会は、この地域をコロナ後の新しい生活様式・社会システムにおける観光振興のモデル地区とすることを提言してきました。
COVID-19による世界の大都市の惨状を見ても、過度な人口集中が限界にきていることは明らかです。実際、地方への人の移住や企業の移転の動きも始まり、有名な観光地ではなく「ひとりひとりにとって特別な場所」への観光需要が高まっています。
今後、関係自治体間で振興基金も活用した地域振興策が策定されることになっていますので、当会としても、このような社会の動きを捉え、この地域を新しい需要の受け皿とするべく、さらなる提言を行ってまいります。
2つ目の課題は、「洋上風力発電」です。
当会は、成長戦略の柱のひとつとして、九州の経済発展の基盤となる自立した安定的なエネルギー供給の必要性を訴え、エネルギー源の多様化と再生可能エネルギーの推進を求めてまいりました。
我が国では、国の固定価格買取制度により太陽光発電事業が急速に発展し、再生可能エネルギーといえば太陽光発電というイメージが定着しています。しかし、今や、海外では、大出力で安定的・効率的な電源となり、経済波及効果も大きい洋上風力発電が主流になりつつあります。
先日、小泉進次郎環境大臣と意見交換をする機会に恵まれましたが、小泉大臣は、「何とか環境保全をしなければならない。地球温暖化を防止する一つの手段として化石燃料の使用を極力減らしていきたい。」と熱く語られました。そこで、私から、当会が、安定的なエネルギー供給のため、エネルギー源の多様化と再生可能エネルギーの推進、そして、人と動物、地球環境を守るワンへルス運動に取り組んでいることをご紹介申し上げたところ、小泉大臣から「私が標榜していることとまさしく一体です。一緒にやっていきましょう。」との言葉をいただきました。
また、この問題に関しては、福岡県議会でも、昨年の9月定例会で「福岡県における洋上風力発電促進に関する決議」が議決されるとともに、昨年12月2日には、「洋上風力発電促進福岡県議会議員連盟」が設立されています。
そこで、同議連の設立総会に引き続き、当会と同議連の共催で、日本における洋上風力発電の第一人者である一般社団法人日本風力発電協会の加藤仁代表理事を講師にお迎えし、九州における洋上風力発電の普及に向けた広域行政セミナーを開催させていただいたところであります。会員の皆様を始め、多くの方々に参加して頂きましたことに改めて感謝を申し上げます。
これらのほか、新県立美術館の建設や北九州下関道路等、当会の提言事項について、昨年、重要な進展があり、今後も、当会の提言の趣旨に沿ったものとなるよう、見守り、支援してまいりたいと考えています。
最後に、会員の皆様、そして九州の政財界、行政機関の皆様方におかれましては、引き続き、当会の活動へのご理解とご支援を賜りますこと、並びに、COVID-19が一刻も早く収束し、社会が落ち着きと明るさを取り戻すとともに、本年が皆様にとって大きな飛躍の年となりますことを祈念いたしまして、年頭のご挨拶といたします。
令和3年1月吉日
九州の自立を考える会 会長 藏内 勇夫
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